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夢十夜 を読んで…
論文的な文章ばかりを読んでいると、無性に人の暮らしや人と人の話し言葉が欲してくる。
物語…読みたいな。
だけど、連続性のある本を読んでいるから、いっときだけ感情移入でき完結する短編がいいな…と。
リフレッシュを兼ねての本選び、ここは本の厚さも重要です。(笑)
本棚を見つめながらイソップ、グリム、芥川、太宰、漱石、、、

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

夏目 漱石/岩波書店

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夢十夜、という言葉の響きに誘われてこの本を選んだ。

ご自身の体験をもとに物語を描かれる漱石さん、どんな夢をみたのかな?と、ちょっとわくわく!

こんな夢を見た。――から始める第一夜、
 腕組みをして枕元に座っていると、仰向きに寝た女が、静かな声でもう死にますという。
あのぉ… 漱石さん、ちょっと… 始まりはそこからですか?
軽いため息をつき、読み進めます。

 自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。―― もう死んでいた。

ここまでの漱石さんの語りで、すでに、自分の周囲がなくなってしまったように私は一気に話のなかに没入。
漱石さんはロマンチストだなぁ… 100年の約束、変わらず守りつづけるなか、ふと浮かぶ疑いの心。そうした瞬間、時間が動き出したかのように一輪の真っ白な百合が自分の傍に胸のあたりまで伸びてくる。

 そこへ遥かの上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前に出して冷たい露の滴る、白い花瓣に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気が付いた。

これで第一夜は終わるのですが、目の前あるものをみたままを、交わした言葉を絶妙な文章で表現して綴っています。物語の内容は重く、暗く、怪しく、不気味や不思議なものであっても、語調というのかな?音読しても黙読しても、私の脳と心がそれらを美しいと感じるのです。

夢十夜 を読んで…_f0324510_20461152.jpg

『夢十夜』
第一夜、死とは夢のようなもの?植物を愛する漱石さんらしい恋物語。
第二夜、その瞬間に悟ったのね。
第三夜、その背中の子の意味を認識できた瞬間この男の身にそれを体感する。過去も未来もひとつに繋がり現在(いま)にあることを識る
第四夜、これはもっと不気味(汗)なのでその部分引用だけ。 なっちゃたのかな…?あ、逆かな?
 「御爺さんの家は何処かね」と聞いた。爺さんは長い息を途中で切って、「臍の奥だよ」といった。
第五夜、どっちになっても同じ結果なのに… “何かのせい”という思いがあるうちはその苦から逃れられない。
第六夜、明治の世の国に対する風刺? 仁王を彫り現すことができる者はいないのか!
第七夜、執着から離れるとわかることがある。でも… そうなってからではねぇ…あ、執着から離れられないとわからなのか?  甲板から足が離れて暗い海に落ちていく、この間の描写は、思わず足を縮めたくなる(汗)
第八夜、人間の目の不思議。自分勝手に見たり見えたり(思い込み)するものだ。
第九夜、知らぬ、知らされぬ。悲しい…現実世界。夢の中のほうに真実があるということか…
第十夜、七日目に戻ってきて話してくれたのね…… あ…苦しかろうに。

第一夜から第七夜まで漱石の描く夢の物語にひき込まれ、時間すら忘れてしまっていた。第八夜はちょっと苦戦しました(笑)でも、こう読み取れたとき一番心に残った作品です。これらの夢は漱石さんの死生観を見るような短編集だと感じました。
夢は無意識の面ををみるともいいますので、咄嗟、無意識に起こる動作などから見えるものこそ真実なのかなというように描いているのかな?などと、を思索していくと短い物語だからリフレッシュのためにとこの本を選んだことに・・・。(汗)陳謝!

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他二篇のひとつ、『文鳥』
漱石が文鳥を飼い始めるいきさつから始まります。
文鳥を飼うことを勧める三重吉に対して漱石が心に思った言葉
 何しろ言いだしたものに責任を負わせるのは当然の事だから、早速万事を三重吉に依頼することにした。
その十月を過ぎ、季節は小春になり、この縁側に文鳥がいたらさぞよく鳴くだろうと思う。日の当たる縁側を見て鳴かない文鳥を想う。そのうち、霜が降りる季節になり、火鉢に炭を欠かせない頃にはもう文鳥のことすら忘れてしまった。
ようやく、文鳥を持ってやってきたのは冬の晩。三重吉はお世話の仕方をこまごまと漱石に話す。
 三重吉は文鳥のためにはなかなか強硬である。それをはいはい引き受ける。
 先生は寝坊だからちょうど好いでしょうと大変文鳥に親切を極めている。そこで自分もよろしいと万事受合った。
 こう一切万事調えて置いて、実行を逼られると、義理にも文鳥の世話をしなければならなくなる。内心ではよほど覚束なかったが、まずやってみようとまでは決心した。もし出来なければ家のものが、どうにかするだろうと思った。

この後は、漱石と文鳥の暮らしの日常を描いていくのですが、文鳥の様子その時々の漱石の心の移りかたや行動の描写が見ているように読めて、何気なく通り過ぎるような事象をとらえる観察力があってこそ描ける光景がいくつもある。
文鳥が家に来るまでの期間が経ち文鳥を思う心が薄れてきたように、文鳥を飼っている生活にも同じように重なる思いがあって、悲しいかな人間は時とともに新鮮さを失い怠惰になり、「忙しい」とは心を無くすと書くが、声が聞こえなければ存在すら忘れてしまうものなのだと強調しているように思えた。
文鳥が死んで下女に八つ当たりしたり、その旨を三重吉に手紙を書き送ったり、その三重吉からの返事にその事を諌める文章がなかったことも、こうしよう!との思いがあってもできなかったり、忘れてしまったり… 誰しもそういうことがあるのだと伝えているのかなとも思った。
短編だというのに感じ取れるものが多くあってこうも纏められるものなのかと、読後に驚いた。 


『夢十夜』と『文鳥』で、60ページ弱に書かれているとは思えないほど一つ一つが深く考えさせられるものであり、簡略して書かれたという印象は全くなく、短編とは思えないほど詳細な場面を思い描くことができる。まだまだ読んだ本の数が少ない私にでも、文豪といわれる凄さを見せられた思いがした。
今年は、夏目漱石生誕150年。昨年は、没後100年。
漱石が描く人間、そんな遠い昔の人のように思えない「作品が色あせない」といわれるのはこうしたところなのだろう。
夢十夜という言葉の響きに誘われた縁を大事に、『永日小品』25編もじっくりと味わっていきます。

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『永日小品』
元旦・蛇・泥棒・柿・火鉢・下宿・過去の匂い・猫の墓・暖かい夢・印象・人間・山鳥・モナリサ・火事・霧・懸物・紀元前・儲口・行列・昔・声・金・心・変化・クレイグ先生 以上25作品

漱石の見るところ、目線、観察眼、直接的じゃない表現が堪らなく好きです。
BEST5に絞ろうとしたけど… あと一つを捨てきれずBEST6(順位はつけられず^^;掲載順です。)

「火鉢」熱い蕎麦湯を飲みながら火鉢の炭を眺めているシーンはとっても大好きです。

「霧」在るのだけど見えない見えたかと思うと又見えなくなる霧中、人間の目で見る情報などたかがこれくらいのものか…と。現実に超方向音痴の私にはそんな風に感じた。話的には一番好きかも。

「紀元節」漱石さんの心。見た目だけで馬鹿にしてたからゆえにした行動(こんなところに人の土壌がみえてしまう)を、いまでも恥じて後悔の念があるのですね。

「行列」なるほど。何かな?と想像しながら読んで、最後はふっと笑みがもれる。

「昔」同じような声・空(いつの時も変わらずある)ものに縁した刹那に景色は時空を駆ける。

「心」意味やモノに関係なく無意識に動くもの。




✿✿✿

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by sakura8sakura | 2017-03-05 23:52 | 読書

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