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西行の生き方

西行 (新潮文庫)

白洲 正子/新潮社

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はじめは、西行というお名前と僧であることしか知らなかった。
西行が詠んだ和歌を知った。
 ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」
桜をこよなく愛した西行を知る。
西行の『山家集』を読んでみたくなった。
しかーし! 和歌に込められた西行の想いを知るのは……今の私には非情に難解であろう
そこで、読書メーターで時々見聞きしていた白洲正子さんの書かれたこちらの本をチョイス♪


西行の歴史をたどり、読まれた歌を歴史の背景に重ねながら西行の心に近づこうとする。
同じ道を歩き、そこからみえる景色(新たに人間の手が入っていない)を見ることで心に感じる西行の心。
草木、吹く風、その季節の気温、肌に感じる空気などを白洲さんご自身の五感で感じる。
そうすることではじめて西行の歌に込めた心に近づくことができるのではないかと仰っている。


その時々の西行に、思いを馳せる白洲さん。
西行の歩いた道を辿りその場所に立つ。
そこで感じる… そのときの西行が感じたであろうことを、
「もちろん、それは私の主観であるんですが…」と、仰る白洲さん。

学者ではない視点で西行の歌の心情を読み解く。

政治的見地に関わることを極力避けていたが次第に世間的な名声を勝ち得たがため、俗事に関わることも余儀なくされていたのではないかと白洲さんは想像する。

鳥羽上皇、崇得院、平家、源氏、とも歌の上で隔てなく交流する西行の心を表すように詠まれた歌。

 「菅島や答志の小石分け替へて 黒白混ぜよ裏の浜風」

 黒白はっきりと分けるのではなく、まぜてしまった方がいいといっているところにも、偏見のない西行の思想を見出すことができる。
 やはりこういうことは現地に行ってみないと実感できないことで、風の強い伊勢湾に立つ「波の花」にも、秋風に舞う鷹の姿にも、絵のような島々のたたずまいにも、西行のいぶきが感じられるのであった。



西行は言う。
 「一首読み出でては一体の仏像を造る思ひをなし、一句思ひ続けては秘密の真言を唱ふるに同じ」
私が和歌を詠むのは仏像を彫るのと同じなのであると… それは、歌人が歌を詠むのとは違うのだと

 「虚空の如くなる」無色透明な立場で詠んだから、後世のの人々の心を打ったので、歌によって名声を得ようとは思っていなかった。
 西行は、数奇という無償の行為に命を賭けていたのである。だから歌によって法を得ることができたので、幽玄だの余情だのにかまけて歌道を学んだところでろくなことはないといったのである。




僧・俗・世間を見て西行の心は憂いていた。

特に、崇徳院の生い立ち、西行は晩年の地獄の如き境涯を観るに、最期の時まで崇徳院の心を慰めることが出来なかったことに心を痛めたであろう。



「地獄絵を見て」の連作から、白洲さんは西行の心の歴史を読みとっている。

 「見るも憂しいかにすべき我心 かかる報いの罪やありける」

黒きほむらの中に、をとこをみな燃えけるところを(詞書き)
 「なべてなき黒きほむらの苦しみは 夜の思ひの報いなるべし」
 「わきてなほ銅の湯のまうけこそ 心に入てり身を洗ふらめ」
 「塵灰にくだけ果てなばさてもあらで よみがへらする言の葉ぞ憂き」
 「あはれみし乳房のことも忘れけり わが悲しみの苦のみ覚えて」
 「たらちをの行方を我も知らぬかな 同じほのほにむせぶらめど」

保元・平治の乱から源平合戦につづいて、つい先達おとずれた平泉の藤原一族も、義経の一党も、既にこの世になかったことは感慨無量であったに違いない。また、崇徳院の堕ちた魔性の世界も、僧侶たちの犯す破戒の罪も、「夜の思ひ」の堪えがたさも、現世における地獄の種々相を西行は見つくしていたのである。
 それにしてもすべての迷いを富士の煙とともに昇華させた人にとって、なおこのような煩悶があるのは解せないが、この連作をくり返し味わっていると、何となく私にはわかって来るものがある。小林(秀雄)さんがいうように、「心の苦痛」を感じたことも事実であろうが、その苦痛を乗り超えて、地獄へ堕ちた人々を救いたいという切なる願望があったのではないか。地獄絵の歌は全部で二十七首あるが、今あげた五首のあとに、がらりと趣の変わった歌があらわれる。

こころをおこす縁たらば阿鼻の炎の中にてもと申す事を思ひいでて(詞書き)
 「ひまもなき炎(ほむら)のなかの苦しみも 心おこせば悟りにぞなる」

一念発起するならば地獄の業火も清浄な蓮の池に変る。すなわち悟りを開く機縁となるであろう

 「光させばさめぬ鼎(かなへ)の湯なれども はちすの池になるめるものを」


三河の入道、人すすむとて書かれたる所に、たとひ心にいらずとも、おして信じならふべし。
この道理を思ひでて(詞書き)
 「知れよ心思はれねばと思ふべき ことはことにてあるべきものを」

「知れよ心」と強い詞を用いているのは、自分自身に言い聞かせているような趣があり、老年に至ってもまだ仏道に入り切れなかった西行の本心を明かしているように思う。

 「おろかなる心の引くにまかせても さてさはいかにつひの思ひは」

 人間というものは、生きているかぎり、最期まで煩悩から逃れることはできぬ、人間はそんなに強いものではない、そのことを「おろかなる心」といったのである。そして、「おろかなる心」と熟知していればこそ富士の煙にすべてを任せることができたので、西行はもう若い頃のように迷ってはいず、動じてもいない。西行にとっての煩悩とは、いうまでもなく数奇の道に徹することで、事実彼はそのようにして死ぬのである。

 この連作が地獄に堕ちた人々の救済のために書かれたことは明白である。けっして小林さんがいうように、地獄の苦しみを歌ったのではなく、そこには救われる道もあることを示唆している。「地獄絵を見て」の二十七首は、いわば西行が経て来た心の歴史なのだ。物語の体をなしているのはそのためで、最後はこのような歌でしめくくっている


 「すさみすさみ南無ととなへしちぎりこそ 奈落が底の苦にかはりけれ」

 遊び半分にでも称えていた縁によって、奈落の底の苦から救われる因(もと)となった、というのである。

 「朝日にやむずぶ氷の苦はとけむ むつわをきくあか月の空」

 朝日の前に、氷りついた苦悩も溶けてしまう意で、「むつのわ云々」は、錫杖についている六個の輪の音が、暁の空にひびきわたって、無明の夢から覚めるという歌である。
 




武士から出家し僧となり、桜を愛し和歌に命を懸ける。
一般的に思われる僧と比べるとかなり異端な生き方なのかもしれないが、和歌から感じる西行の到達した境地は「空」なのではないだろうか。

 風になびく富士の煙りの空に消えて ゆくへも知らぬわが思ひかな」

白洲さんはこう読み解いている。
 この明澄でなだらかな調べこそ、西行が一生かけて到達せんとした境地であり、ここにおいて自然と人生は完全な調和を形づくる。
 西行が恋に悩み、桜に我を忘れ、己が心を持てあましたのも、今となっては無駄なことではなかった。数奇の世界に没入した人は、数奇によって救われることを得たといえるだろう。



白洲正子さんの眼をとおしてみえた「西行」を読み終えて

西行は、大自然のなかに身を置きそこで心に感じたものを和歌に詠む。そう徹することで自然の法理・摂理から真理に到達したのだろう。
大自然と対峙することは、自身の己心と対峙することなのだろう。

いかにも人間らしい人間でありつつ、人間として高い境地に到達した人なのだろう。と思った。
ここにも、一つに徹すれば真理に到達するという証明でもあろう。




西行:1118年~1190年
 伝えられることに偽・真があるようだが、白洲さんの眼をとおしてみえた西行という一人の人間として見させていただきました。

 西行と明恵との出会いがあったことを知った。

 後年、明恵上人の伝記の中で、西行が、「我れ此の歌によりて法を得ることあり。若しここに至らずして、妄りに此の道を学ばば邪路に入るべし」といい、白洲さんはここにいう「法」とは、必ずしも仏法ではなく、いかに生くべきかという自己発見の道であったと思う。と述べられていることを追記しておきます。








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by sakura8sakura | 2017-10-03 15:30 | 読書

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