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貧愛の母
 岡本太郎氏の自伝風の画文集『挑む』を興味深く読んだのだが、なにせ利かん気が強く、小学校一年にして転校に次ぐ転校、四つめの慶応幼稚舎にはいって、やっと落ち着いたというほどである。
 私が興趣をそそられたのは、そんな太郎少年に接する、母親かの子女史の姿勢である。
 芥川龍之介をモデルにした『鶴は病みき』で文壇デビューして、著名な文人であった岡本かの子。文学に情熱を燃やす彼女は、一日中机に向かって読書や書きものをしているときが多かった。
 かまってもらえない太郎少年が、不満で背中に飛びついたりすると、母は兵児帯をわが子の胴に巻きつけ、柱かなにかに繋いでしまう。泣こうがわめこうが、けっして帯を解いてはくれなかったそうである。
「明るい障子、庭に面した机に向かって、ぱさりと黒髪を背中にたらした母の後ろ姿……それは私の目にやきついた強烈な思い出だ」と、岡本氏は記している。
 たしかに辛く悲しかったが、みじんも動かない母の後ろ姿に、なにか「神聖感」を覚え、「強い一体感」を抱いていた、とも述懐しているのであった。
 おそらく、かの子女史の性格もあったであろう。こうした母子関係は、ふつうの人には極端な印象を与えるかもしれない。しかしそこには、巷間いわれるようなベトベトしたもたれ合いは一切ない。母は背で語り、子は母の背から、自立した人間の生き方というものを、無言のうちに本能的に学び取っているのだ。

 もう一つ、福沢諭吉の母をあげてみたい。
 大分・中津を出て大阪の緒方洪庵の塾に学んでいた諭吉は、安政三年九月、長兄の訃報を受けて郷里・中津へ帰る。男兄弟は二人のため、諭吉が家督をつぐことになる。
 家督相続をした以上、郷里にとどまるべきが筋なのだが、若き諭吉の向学の志は燃えさかるばかりであった。親類縁者に心の内を打ち明けても、すごい剣幕で怒られるばかりで、とりつくしまがない。
 思いあまった諭吉は、意を決して母に直談判に及ぶ。
「どんなことがあっても私は中津で朽ち果てようとは思いません。アナタはお淋しいだろうけれども、どうぞ私を手放してくださらぬか」
 諭吉が家を出れば、残るは老母と三歳になる長兄の遺児の二人暮らしになってしまう。しかし、母はなかなか思い切りのいい性格で、
「ウム、よろしい」
「アナタさえそういってくだされば、だれがなんと言ってもこわいことはない」
「オーそうとも。兄が死んだけれども、死んだものはしかたがない。お前もまたよそに出て死ぬかもしれぬが、死生のことはいっさいいくことなし。どこへでも出ていきなさい」
 かくて諭吉の大阪行きが決まる。それは諭吉が二十歳をいくつか出たころのことである。この母の断がなければ、明治の思想界、教育界の先覚・福沢諭吉の名は聞くことができなかったであろう。

 日本は母性社会であるといわれる。だが、二人の母の例に見られるような母性の持つ強さというものが、現代の社会では徐々に毀れつつあるように、私には思えてならない。深く進行しつつある子供たちの登校拒否や家庭内暴力などは、その証左といってよい。
 ある識者は、登校拒否児に共通する特徴として、母親といっしょにいたいという欲望と同時に、学校へ行かせたいという母親の願いに対する反発をあげている。
 その反発が、長じて家庭内暴力へと発展する――。もとより母親ばかりの責任ではけっしてないが、それらの根にあるものは、岡本かの子女史や福沢諭吉の母の生き方とはまったく逆の、母と子のもたれ合い、癒着した関係である。

 仏法では「貧愛の母」ということを説いている。
 貧愛とは、五欲に執着することで、広くエゴイズム一般とも拝せよう。
 わが子に寄りかかり、思い通りにしようとする欲望も、当然そのなかに含まれる。しかし、それでは子供たちの自立心は育ちはしまい。
 はえば立て 立てば歩めの 親心――とよく言うではないか。
 どこまでもわが子の、健全でたくましい成長を願うのが、親心である。
であればこそ「貧愛の母」であってはならない。自らの生き方を正しく保ち、自信を持った “後ろ姿”を、わが子の前に示していく以外にないと知っていきたい。


つれづれ随想より抜粋 



 母性社会、すべてを包み込む、いわゆる「母なる大地」という言葉で表現されるものでしょうか。
自然界のなかにあるものを見ると、一見冷たく感じるような母子の関係があります。
それは、母のエゴ「貧愛の母」ではない接し方であるように思います。

 池田先生は、著書「世界の文学を語る」のなかで、ゲーテについて対談されています。
 母と子の関係について、ゲーテは示唆的に語っています。
「母親は家鴨のようでなければならない 子どもと一緒にゆうゆう泳ぐ もっとも水がちゃんとあっての話」
「水」とは、母の愛情のことでしょうね。

 また、ゲーテは、「幼い存在にはあらゆる美徳、あらゆる能力の芽があり、やがてそれが開花するのが予感できる。幼い子のわがままぶりには、大人になってからの堅固な性格、意志の強さがもう顔をのぞかせているのだし、その腕白ぶりには将来もつべき陽気な気分、世の危険をとびこえてゆく軽妙な感覚があらわれていると見られるし、しかもそのすべてが子供の状態においてこそ完璧な形で発揮される」

 できるだけ、ゲーテが言うような大らかな目で、未来の使者である子供たちを見守っていきたいものです。
子どもには本然的に、伸びよ伸びようという生命の躍動がある。それを大切にして、子どもが自由に夢を紡ぎ、創造の翼を広げていけるよう、楽しく、伸びやかな環境をつくってあげたい。

 「ゲーテ」今、私が最も惹かれている人物です。
偉大なゲーテには、偉大な母がいました。また、偉大な父がいました。
一般的に言われる教育といえば、読み書き程度の教育しか受けなかった母ですが、「子どもを教育しよう」といった肩肘張ったところがなく、いつも愛情に満ちた自然体の接し方であった。
「(私は)ささやかな悦びを素速くとります。―― 戸口が低ければ、私は頭を下げます。―― 途に邪魔になる石があれば傍へやりましょう。―― 石が重けりゃよけて通りましょう。―― こんな風に毎日何か楽しいものを見出します」
 ゲーテの楽観主義は、この平凡にして偉大な母に、源を発していると見ることができる。

 岡本太郎氏の母も、福沢諭吉の母も 本来子ども自身が持っている力を、ゲーテの母のように知っていたのでしょう。
    

 さて、今では3人の子育ても終了したと思っている私ですが・・・当時はどうだったか・・・と。・・・
う~ん。一人目のときは、ゲーテの母のようにいられなかったですね^^;
ミルクの量や睡眠時間、発達状況などなど。本や小児科の先生や保育園先生のおっしゃることがひとつひとつ気なって。
こうしなきゃ、こうさせなきゃ。間違いのないように・・・ (「貧愛の母」そのものですね)
きっと、伸び伸びとした子育てではなかったでしょう。(お兄ちゃんゴメンネ!大いに反省!)

 
 ゲーテのお母さんは、彼女自身、何か苦難にぶつかったときは、自らの原点である信仰に立ち返っていった。そうした母の生きる姿勢から、ゲーテ少年も、自然のうちに、正しき宗教への尊敬の念を抱いていった。そして彼女のモットーは「経験は希望を生む」ということ、そして「生きるために学べ、学ぶために生きよ」だったそうです。
 後年、彼女がゲーテに宛てた手紙に「あなたのための胎教といっても、すべてはもう芽生えのうちに備わっていたのですから、私はそのために何かをしたことはありません」と書き送っています。

 先日の座談会で、あるヤングさんが、息子さんが今年は小学校へ入学でさまざまなことが不安で…と話されていました。
物おじしない元気いっぱいの男の子です。とてもいいことだと思います。
 宇宙の法則にのっとった、この日蓮仏法を根幹に生きる姿勢で子どもと向き合っていけばいいのです。
今度、ゲーテのお話をしてあげよう。



五欲
五官をとおして起こる五つの欲望のこと。
色欲:眼に対する・男女や色彩形状等に対する欲望
声欲:耳に対する・楽器の音色や男女の歌詠等に対する欲望
香欲:鼻に対する・栴檀香等の芳香に対する欲望
味欲:舌に対する・一切の飲食美味に対する欲望
触欲:身に対する・男女の肌や柔軟な衣服等に対する欲望

五根(眼・耳・鼻・舌・身)五境(色・声・香・味・触)を対境として起こす欲望である

また、大明三蔵法数には、
財欲(財宝を貪る欲望)、色欲、飲食欲(飲食美味に対する欲望)、名欲(名声・名誉等に対する欲望)睡眠欲(惰性、放縦のため睡眠に耽ろうとする欲望)






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by sakura8sakura | 2016-01-14 16:46 | 説話

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