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草枕 を読んで… (2017.3.21追加・訂正あり^^;)
やっぱり、好きかも~ 漱石の描く世界 
ゆっくりと時間が流れていくよう

 山道を登りながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。・・・

と始まる、有名な小説であるから、あれやこれやと書く必要もないと思うのだけど
日がたてば感動というものは薄れていくものであるので、少しだけ記録しておこうと思う。

初めから、漱石の語る言葉で導かれる風景は「そうそう、その通り!」と思うことばかりで、漱石の観察眼は緻密であって、そして、表現方法の言葉はとても味わいがある。

 春は眠くなる。猫は鼠を捕る事を忘れ、人間は借金のあることを忘れる。時には自分の魂の居所さえ忘れて正体なくなる。ただ菜の花を遠く望んだときに目が醒める。雲雀の声を聞いたときに魂のありかが判然とする。雲雀の鳴くのは口で鳴くのではない、魂全体が鳴くのだ。魂の活動が声にあらわれたもののうちで、あれほど元気のあるものはない。ああ愉快だ。こう思って、こう愉快になるのが詩である。


時は春、春という幻想のなかを歩くように風景をみせてくれる。雲雀の声に忙しない世の人々を映し、芸術とは詩とは詩人とはと語る。
俗世間を離れ山里へと画工として非人情の自分でいようと努めながら旅する。であるが、ついついままならぬ心のなかのつぶやきが非常におもしろい。

会話は“いい調子”といえばいいかな、那美さんとの掛け合いのようなやり取りは次第に弾んでくるようだし、短い言葉のなかにこめた思いは小憎らしくもあったり、クスクスと笑ってしまう。

“美”を求め“美”を写す画工としての目線で描くシーンが脳裏に映し残る、なんとも心地よい気分になる。
自然の描写から感じる“静”は日本人が求る“美”なのだなぁ…と詩人のように思っている自分が少し可笑しくなった。

すべてと言っていいほど、どのシーンも素晴らしい!

その中からひとつだけ
朧月夜にふらりと出掛け足の向くままにまかせ着いた観海寺での和尚との会話とその意味を語るシーンには、なんとも言えず心に響いてきた。
これが漱石の言う “詩ごころを観ずる” というものなのではないかな?と思った。
 
 静かな庭に、松の影が落ちる。遠くの海は、空の光りに応うるがごとく、応えざるがごとく、有耶無耶のうちに微かなる、耀きを放つ。漁火は明滅す。
 「あの松の影をご覧」
 「ええ」
 「綺麗ですな」
 「ただ綺麗かな」
 「綺麗な上に、風が吹いても苦にしない」

―――― 中略 ――――

 基督は最高度に芸術家の態度を具足したるものなりとは、オスカー・ワイルドの説と記憶している。基督は知らず。観海寺の和尚のごときは、まさしくこの資格を有していると思う。趣味があるという意味ではない。時勢に通じているという訳でもない。彼は画という名のほとんど下すべからざる達磨の幅を掛けて、よう出来たなどと得意である。彼は画工に博士があるものと心得ている。彼は鳩の眼を夜でも利くものと思っている。それにもかかわらず、芸術家の資格があると言う。彼の心は底のない嚢のように行き抜けである。何にも停滞しておらん。随処に動き去り、任意に作し去って、些の塵滓の腹部に沈殿する景色がない。もし彼の脳裏に一点の趣味を貼し得たならば、彼は之く所に同化して、行屎走尿の際にも、完全たる芸術家として存在し得るだろう。余のごときは、探偵に屁の数を勘定される間は、とうてい画家にはなれない。画架に向うことはできる。小手板を握ることはできる。しかし画工にはなれない。こうやって、名も知れぬ山里へ来て、暮れんとする春色のなかに五尺の痩軀を埋めつくして、始めて、真の芸術家たるべき態度に吾身を置き得るのである。
一たびこの境界に入れば美の天下はわが有に帰する。



『草枕』を読み終えて、深く椅子に身を任せしばらく目を閉じ回想する。ゆらゆらと水に身をまかせ漂うような心持になった。
和尚のような心持でいられれば全てよしといられるのだろうが、俗な人間はなんともそうはいられなく…
私が感じる功徳とは、こういう風な心持になれることではないかと思っている。

画工が描こうとする美に、唯一、那美さんに足りなかったあるものが・・・
それは、あの刹那、湧き起るあの感情は “憐れみ” だと。
この感情が顕れるのは人間であるがゆえなのかもしれない。ならば、ややも住みにくい人の世も悪くないのかな。

なるほどなと、日々のお散歩のときに目をやる風景などを思い出し詩人の心持で言葉にしてみる。
・・・できるもんじゃない! 即、カッ~ト!
ああ、語彙のなさが恥ずかしい・・・
でも、心は近づけるかもしれない。忙しない日常のうちのほんの一時、こんな心持で風景を草花を眺めていたい。

あー、どこだったけ
英語の本を読んでいるときの那美さんとのやりとり…
本を初めから読むのは筋をわかるため、気の向くまま開きその場面を楽しむそれでいいのだと
ときどきパラパラ開いて漱石の描く美の世界に浸るには、この『草枕』がいいかもしれないね。
語りつくせぬこの感覚を、ぜひご一読をとお薦めしておわります。 



草枕 を読んで… (2017.3.21追加・訂正あり^^;)_f0324510_11532511.jpg
2017.3.17 15:14撮影
桜の公園にある、早咲きの桜

桜のイメージ、桜色と称する 薄いピンク色
陽に照らされて オレンジ色が合わさり
優雅な桜の趣にぬくもりを感じさせてくれるようでした。

『草枕』の春を感じる風景に重なるイメージを残したくて…





✿✿✿

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by sakura8sakura | 2017-03-18 10:46 | 読書

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