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『ゲド戦記 Ⅱ』 The Tombs of Atuan から学ぶ

(2)原題  The Tombs of Atuan (1971)

ゲド戦記 2 こわれた腕環 (ソフトカバー版)

アーシュラ・K. ル・グウィン,Ursula K. Le Guin/岩波書店

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『ゲド戦記 Ⅰ』に続き、ゲドはどうなるのか・・・ ワクワクしながら読み始め・・・
??? なにやら別物のお話のような始まりで

闇の世界?
決まりや掟、迷路を辿る様子が延々と続く、読んでいて陰鬱な重苦しい気持ちになる。
 
幼き頃に大巫女の生まれ変わりだと決められ、そのまま、さだめられた運命を自分の意思なく過ごすアルハ。
繰り返し聞かされる大巫女としての生きる道、当然のように行われる儀式。
アルハは、そこで教えられる事だけ、そこでのみ知ることが、このちっぽけな神殿が全てであったわけで。

そんな中、「海が見たいな」と生き生きと話す巫女見習いのペンセの言葉はアルハの心にどう残っていたのだろうか?
大巫女という運命を背負わない少女という姿に自分を重ねてみたところで、10年近くも権力を持つ者として自他共に認識されているアルハには自分が希望して(夢見る)生きる道など想像することもできないことだったのだろう。
だけど、自分の中にふつふつと沸きはじめる思いをアルハ自身少しづつ認識してきたのだろうか、ある日、見舞いに訪れたペンセに声をかける。立場こそ違うが自分で未来を選択する権利を持たない二人であるがゆえ、大巫女としての自意識が優越感に満足してしまう。それでも、ペンセの自分とは違うものの見方がアルハの心に残ったのだろう。

自分の意思というものに気がついたのだろうか、ただ指示されることだけではなく戸惑いながらも自分の意思で行動することができるようになるアルハ。


転機は突然起こる。


神殿の宝を盗む者と思われる男が迷宮に迷い込んでいる。

自分の知っている世界ではないところから来た者・・・

言い伝えや掟を破ると知りつつもその男を助ける行動をするアルハ。


ここから一気に闇から脱する物語が展開されていきます。

1巻で語られたように、”真のなまえ“ で呼ぶことでアルハではなく真の名テナーとしての意識が見えてくる。

洗脳が解けていく
だがそれは、信じてきたものが崩れていくことでもある。


「―― わたし、どこへ行ったらいいか、わからなくて。でも、ふと、ここだったら安全だろうって思ったの。ここだったら、主たちがわたしを守ってくれるだろうって。でも、だめ。もう、いないの。みんな死んでしまったのよ。」
「あんたが泣いたのは、その主たちのためだったのかい?主たちが死んだと思ったからかい?いるよ、テナー。主たちはここにいるよ。」
「どうしてわかって?」
「なぜって、この地下に足を踏み入れてからずっと、わたしは彼らを起こさずにおこう、しずめておこうと、一生懸命やってきたのさ。わたしは持っていた力も術も、みんなそのために使い果たしてしまった。(中略)ここは、ほんとに恐ろしいところだ。ひとりきりではとても生きられないところだよ。あんたが水をくれたとき、わたしは喉が渇いて今にも死にそうだった。だが、わたしを救ってくれたのは水だけではないんだ。水をくれたのは、人の手の力なんだからね。」



「テナー、闇の者たちは、今まであんたに何をくれた?」
「なんにも。」
「そうさ。彼らは人間に与えるものなど、何ひとつ持ってはいないんだ。彼らにはものを作る力がないんだもの。彼らにあるのはこの世界を暗くし、破壊する力だけだ。彼らはここをはなれることができない。彼らはこの場所そのものなんだからね。ここは彼らに残しておいてやるべきなんだ。彼らの存在は否定されるべきでもなければ、忘れ去られるべきでもない。だが、また、崇拝されるべきものでもないよ。この世は確かに美しくて、明るくて、慈愛に満ちている。だが、それだけじゃない。この世には、また同時に、醜くて、暗くて、非情なところもある。緑の草原ではウサギが恐ろしい悲鳴を上げて死んでいくし、山々は巨大なこぶしを握りしめて、大量の真っ赤な溶岩をしぼり出す。海にはサメが泳ぎ、人の目には残忍さがひそんでいる。そして、人間がこうしたものをよしとして、その前にひれふすところでは、悪は勢いを得て、大いに栄えるんだ。そこには闇が集まり、闇が集まるそんな土地は、われわれが名なき者たちと呼ぶ精霊の支配下になってしまう。光があらわれる以前からの古い大地の精霊たちの支配下にね。狂気といった力の支配下に、だ。」


生と死、光と闇 その両面は必ず存在する。

魔法の力は弱められ働かなくなっても、人間の力は働く。
どんな闇のなかでも、強い意思(信じること)によって行われるその行為だけは、コトや心を動かすことができる。

その不安と恐怖を打ち破るのは、ゲドへの信頼である。




支配するもの、支配されるもの。

アルハは純粋な信仰心のもと、自分の立場の責任を果たそうとしていた。
崩れた石垣に番兵を立たせよと指示するアルハ、だが、その指示は聞き入れられることなく済まされてしまう。親身になって教えてくれていたサーもいなくなり、もはやアルハの存在は形上だけのものになっていたのだろう。

コシルは、邪な心に支配され抜け目なくアルハの立場(地位)を利用しようとしていた。そこには、信仰心というものはもはやなくなっていたのだろう。

マナンは、無知であり長年の呪縛に縛られ、思い込みと恐怖に支配された可哀想な男。




さて、副題である “壊れた腕輪”  エレス・アクベの環 内側に刻まれている九つの神聖文字。

四文字と半分づつに割れてしまったことで、アースシーは小さな国々に分裂し、あちこちに暴君があらわれ、小ぜりあいと戦争を繰り返してきたのだと。
ふたつに割れた神聖文字は国々を結びつけるもので、それは “つなぎの文字” で統治のしるしであり平和のしるしだった。



「―― 信頼と呼ぼう。・・・・・・そう、たしかにそう呼んでいい。これはすばらしいものだ。おたがい、ひとりでは弱いけれど、信頼があれば、わたしたちは大丈夫だ。闇の精霊たちより強くなる。」

アルハの墓所の宝として埋蔵されていた半分の環とゲドがある弧島で授けられた半分の環。割れた腕輪がひとつになる。

このシーンは鳥肌がたつほど感動!



アチュアンの墓所から出ることを選択したアルハ。
アルハだから知っている知識とゲドの魔法の術。そして、お互いを信じる心(信頼)によって、闇の世界の象徴というべき神殿が地中へと崩れ落ちていく。


アルハにたびたび襲う不安や疑いの心

ゲドは、自分から見いだすアルハの意思を待った。これってスゴク大事なこと。



そして、アルハの自尊心を取り戻すためにハブナーでこう言うんだ!と。
「いいかい、テナー、よく聞くんだ。あんたは、たしかに、邪なるものの器だった。だが、中味はあけられた。ことは終わって、邪なるものは、その自らの墓に埋められたんだ。あんたは、決して、残酷さや闇に奉仕するために生まれてきたんじゃない。あんたはあかりをその身に抱くように生まれてきたんだ。灯りのともったランプは、周囲を明るく照らし出す。わたしの見つけたランプは、まだ灯りがともっていなかった。だが、わたしはそのランプを無人島になど捨ててはいかないよ。それでは、まるで、ひょいと見つけて、ぽいと捨てる物じゃないか。わたしはそんなことはしない。わたしはあんたをハブナーに連れてって、アースシーの貴族たちに言うんだ。『見よ!わたしは闇で光を見つけたぞ。』ってね。わたしは彼らに言うんだ。『この人のおかげで、わたしは墓から出られた。この人のおかげで、こわれたものはもとどおりひとつになり、この人のおかげで、憎しみのあったところに平和がもたらされるんだ。』って。」



テナーの心を思い、ゲドは自分の師匠であるオジオンのところへテナーを連れて行く事を提案します。
これまで(アチュアンの墓所に来るまで)にゲド自身が経験してきたことがテナーを思いやる心(言動)にあらわれているんだろうな・・・

次巻はハブナーの地へ足を踏み入れるところから始まるようです♪




魔法はきっかけをつくるもの、力があるのは人間が自身の力によって行う行為。
ひとりひとりの力は弱くても、互いに信頼しあう関係を築くことによって大きな力となり得る。
そして、生きていくのに大事なことは魔法ではなく憐れみの心と感謝の心。
自由とは、与えられるものではなく自分自身の責任で選択するもの。


などと・・・格言のように書いてはみたが・・・
味も素っ気もないですね(汗)


心のひだを縫うように、時には優しく時には強く訴えかけるファンタジー
物語から感じ伝わる響きを受け取っていきたいですね♪






✿✿✿


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by sakura8sakura | 2017-06-30 00:41 | 読書

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